「就職氷河期世代支援プログラム」とは?|政策担当者に聞く#02

Publinkのインタビューを掲載しています。

インタビュー

今年7月末に「就職氷河期世代の対策室を立ち上げる」と各メディアが報道した。

就職氷河期世代の潜在的な生活保護受給者は 77.4 万人程(※)いるとも見られ、経済的にも福祉的にも大きな問題と言われている。

※出典:就職氷河期世代の老後に関するシミュレーション|総合研究開発機構

 

ネットでは様々な賛否や記事が見受けられるが、実際にどうなのだろうか。

 

内閣官房に立ち上げられた「就職氷河期世代支援推進室」の光武様に「なぜ、いまなのか」「なぜ、就職氷河期世代なのか」「なにをやっていくのか」といった疑問に答えていただきました。

 

 

目次

就職氷河期世代は、社会の中核層

Publink 深山(以下、深山):就職氷河期の支援について、SNSやニュース記事のコメントを見ていたら「ぜひ迅速に実行して欲しい」という賛成から「どうしてこの世代だけを支援するのか」といった批判も賛成すごく色々あって、多くの社会人にとって琴線となるテーマなのが伺えますね。

 

内閣官房 光武様(以下、光武):そうですね。就職氷河期世代というのは、一般的にはバブル崩壊後の雇用環境が厳しい時期(1993年から2004年)に高校・大学等を卒業した方々を指すと言われていて、現在では概ね30代半ばから40代半ばの層になります。この層は団塊ジュニアと言われる層と一部重複していて、社会においても非常に重要で影響力が大きいですから、関心も集まりやすいのだと思います。

 

「どうしてこの世代だけを支援するのか」ということについても、この世代が力を発揮出来るようになることにはそれ以外の世代、そして社会全体にも大きな波及効果があり公益に資するのだと考えているからでもあります。

 

深山:働き方自体は多様化していますが、仕事は殆どの人にとって重要な関心ごとですしね。ちなみにネットでの声を見ると「今さらっ!!」という声も多く見られますね。。。

 

実際、10年前にしていればいま40才の方も30才で選択の幅も広かったでしょうし。

 

光武:そうですね、問題の全てを解決出来ていないのは事実で、それを重く受け止めているからこそ、私たちも覚悟を持って今回臨んでいます。

 

一方、いままでもずっと政府での支援は実施し続けています。例えば、2003年では「若者の自立支援プラン」をまとめていたり、2006年に「再チャレンジ」を打ち出しています。

 

深山:それは知りませんでした。すると、そういった既存の支援と今回の支援プログラムは何が違うのでしょうか。

 

光武:一方ではこれまでの支援策を拡充しつつ、他方では新たな支援策を3年間集中的に講じ、支援を加速化する取り組みだと考えていただく方が良いかもしれません。そうした支援の趣旨が、いわゆる骨太方針2019中の就職氷河期世代支援プログラムに盛り込まれています。

 

(編集部注)骨太の方針…経済財政に関する基本方針の通称。正式名称は「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」。経済財政諮問会議の答申を受け、6~7月に閣議決定を経て策定される。

 

政府全体として氷河期世代の支援をしていくため、令和2年度の関連予算の要求も合計1344億円となっています。

 

もちろん、これまでも支援を実施してきたように、「3年間集中したら、はいおしまい」という訳ではなく、この期間はいままで解決しきれていなかった問題などに改めて取り組み、支援を加速させるためのものとして捉えています。

 

深山:お恥ずかしながら、批判記事等も結構見ていたので誤認識をした上に、ちゃんと実情を理解していなかった気がします。改めて、今回の支援プログラムについて背景や内容を教えてもらってもいいでしょうか。

 

氷河期世代への支援とはなんなのか?

光武:先ほどのおさらいも含めると、就職氷河期とはその名の通り、就職環境が非常に厳しい時期のことです。

 

“内閣府|就職氷河期世代支援プログラム関連参考資料(2019年6月11日)を参考に編集部制作”

 

 

そして、再就職が難しい状況が続き、それが解決しないまま高齢化が進んでいることで問題が深刻化していく中、、就職氷河期世代支援プログラムを着実に実施することで支援の取り組みを加速化していくことにしています。

 

深山:なるほど、非正規雇用人口の「不本意な非正規雇用の削減」や非労働力人口の「社会参加や就職支援の増加」といったことを目指すと。

 

光武:そうです。ただ、施策については就労支援とあわせてもう1つ、合計2つの柱を考えています。

 

1つ目の柱は、相談、教育訓練から就職までの切れ目のない支援。

2つ目の柱は、個々人の状況に合わせたより丁寧な寄り添い支援。

 

“就職氷河期世代支援プログラム2つの柱(編集部制作)”

 

 

深山:それぞれどのようなことをしていくのでしょうか。

 

光武:1つ目の柱、「相談、教育訓練から就職までの切れ目のない支援」では、入口となる相談窓口に専門担当者のチームを設置して支援を拡充することで、相談、教育訓練から就職(更には定着)といった各ステージにおいて、個々人の状況に合わせてきめ細かく相談出来る体制を整備します。

 

そうした上で、短期間での資格取得と職場実習等を組み合わせた出口一体型のプログラムを提供し、就職まで支援をしていきます。

 

深山出口となる採用企業側の受け入れも重要になりそうですね。

 

昔、転職サイトの営業していたのですが、基本お客さんに「伸びしろのある第二新卒くらいか、活きのいい即戦力が欲しいので25~35才前後にダイレクトメール送りまくって」と言われていたのを思い出します。

 

光武:その通りです。ですので、例えば社会人インターンシップの推進によって両者が繋がる機会を増やしたり、氷河期世代の雇用や育成に協力した事業者への各種助成金を拡充して採用企業側への動機づけもしていきます。

 

そして、これらのためには民間事業者の専門的なノウハウや協力が不可欠です。

財源を確保して、成果連動型の委託等も実施していく考えです。

 

深山:なるほど、「正規雇用を希望する人のための道筋をさらに整備する」という捉え方をしました。就職支援付きのプログラミング教室や職業訓練も増えているので、そういった選択肢が拡大したり、相談しやすくアクセスがしやすくなるみたいな。どうやって民間と連携していくかや実際の採用事例が増えていくことが肝になりそうですね。

 

一方、その道筋の手前で困っている方、社会と断絶してしまって雇用自体を希望しない方もいる気がするのですが。

 

光武:はい、そういった方は特にそれぞれの状況に合わせた個別の働きかけが重要になってくると思っています。そのためにあるのが2つ目の柱、「個々人の状況に合わせたより丁寧な寄り添い支援」になってきます。

 

そういった方が直接行政の窓口に出向くことはハードルが高いため、地域のサポートステーションや支援機関、NPOや地域活動をしている方々と連携をして、ご本人や場合によってはご家族にアウトリーチして、社会との関わりを橋渡しするための情報提供やコミュニケーションを丁寧にしていきます。

 

これは1つ目の柱以上に長期戦だと思いますので、根気強く支援の輪を拡げる考えです。

 

深山:先ほど仰っていたように「3年間でおしまいではない」ということですね。

 

光武:そうです。今年6月に取りまとめられた就職氷河期世代支援プログラムでこうした方針が掲げられ、政府を挙げて速やかに支援を実施できるよう、内閣官房の中に就職氷河期世代支援室が立ち上がりました。

 

今後の予定としては、12月にかけての予算編成の過程で、財務省と調整しながら事業案の具体化を進め、政府として予算をまとめることになります。年明けからの国会審議を経て、予算案が成立した後に、予算事業に着手していくことが出来ます。

 

深山:なるほど、今年は2020年度に向けた準備に奔走する形ですね。

 

光武:そうですね。ただ、先に述べたように、すでに行っている事業の拡充等、予算化前に出来ることには着手しています

 

例えば、厚労省が運営している「地域若者サポートステーション」では、いままで主に15才から39才を対象にしていましたが、一部の場所では、すでに44才までに対象年齢を引き上げました。来年度からは、全国で49才まで年齢が引き上げられる予定です。

 

厚労省|既に運用改善等により実行に移している施策(2019年8月30日)

https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000542625.pdf

 

深山:そういえば、ハローワークが就職氷河期世代限定の求人を出せるようにしたのを見ましたが、それもそういった一環でしょうか。

 

光武:ニュースで取り上げられていましたね。現行法では、雇用の平等性の観点から年齢制限をかけた求人は原則禁止です。ただし、国の施策を活用して特定の年齢層の雇用を促進する施策を実施する場合、年齢を制限した求人募集は例外的に認められています。

 

 

 厚労省|労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A (参考)

https://www.mhlw.go.jp/content/000541168.pdf

 

深山:言うのが二回目なのですが、キャッチ―な記事や声の大きなコメントに踊らされて色々誤解をしていました。。。

 

光武:そういった取組を様々な方にきちんと伝えるためにも広報もとても重要視しています。普及啓発はもちろん、民間事業者や地方自治体との連携や理解、雇用における固定的な意識を変えるための機運づくりに取組んでいかなくていけません。

 

すぐ動けるところとして、Twitterアカウントが近日公開(※)です。

 

“※取材後、2019年10月8日に下記アカウントが開設”

深山:確かに情報が届かなくては始まりませんものね。チェックします。

 

 

誰がやるのか?

深山:お話を聞いて最初より理解は深まったのですが、「誰がやるのか?」が鍵になりそうだなと思いました。政策を実行する上で政府や地方自治体は基礎として、どのようにして官民問わずプレイヤーを巻き込んでいくのでしょうか。

 

光武:まず、政府としては内閣府、厚労省、文科省、経産省、総務省、農水省、国交省で来年度の予算要求に動いています。

“「内閣官房|就職氷河期世代支援プログラム関連予算について」を元に編集部制作

 

その上で厚労省と調整を進めているのですが、就職氷河期世代支援の関係者が繋がり、集うプラットフォーム(会議体)を整備していき、支援に係る情報の共有や好事例の横展開等を行い、支援に社会全体で取り組む気運を醸成していきたいと考えています。

 

深山:プラットフォームですか?

 

光武:まだ検討中で、いつ行われて誰が参加するかなど詳しいことは決まっていませんが、

プラットフォームは大きく2つに分かれると考えています。

 

国単位のプラットフォーム。

それと、各地域単位のプラットフォーム。

 

国単位で各省庁や経済団体、当事者団体の代表に集まっていただいて方向性を議論し、地域単位でそれを各地域に適した施策に落とし込み、地域の支援センターや民生委員や現場の声を吸い上げていく。

そして、横のつながりや事例の横展開をしていく、といったことをその場でしていきたいと考えています。

 

そこでどのような方々に関わって頂くかは目下検討をしています。

 

深山:きめ細かい施策をするために適正な大きさの会議体を敷きつつ、全体の相乗効果を生むためにそれぞれの連携をしていくということですね(※)。

 

 ※取材後に公開(2019年9月13日)された「就職氷河期世代活躍支援都道府県プラットフォーム設置要領(モデル都道府県)」。愛知県、大阪府、熊本県では10月に先行的に開催された。https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000547552.pdf

 

各産業界、例えば農水省や国交省の名前が挙がっていたので所管産業となる林業や農業、自動車の関係産業も参加するのでしょうか。

 

光武:各産業界の参加はまだ分かりませんが、幅広い関係者と連携をしていく必要があります。

 

例えで出して頂いた林業で行くと、フォレストワーカーといった分野は林野庁が所掌しており、林野大学校などと連携しての支援策も来年度の予算要求事業に含まれています。

 

 

政府を挙げての就職氷河期世代支援に向けて

深山:色々とお話を伺い、これからどんどん関係者との調整や協力の呼び掛けや予算取りなどの大変な要所に取組む必要性も含めて、なんとなく全体像が分かってきました。

 

また、個人への支援に「飛び道具」はなく、官民が連携して粘り強く支援の輪を拡げ、手厚く届けていくことが重要なのだな、と強く感じました。

 

光武:この課題は長く続き、政府としても支援を行ってきていますが、いまだ解決には至っていません。ですが、社会の中で大きな比重を占める就職氷河期世代の方々が力を発揮出来る環境を整備できていないということは、社会全体にとって非常に大きな損失だと考えています。

 

就職氷河期世代の方に限らず、社会人として重要な最初の一歩が就職難を理由に踏み出せなかったという一度の失敗がその後の人生を左右してしまうことは、社会の持続性という観点からも望ましいとは言えません。

 

深山:確かに「社会人のレール」というものに依然として悩む人間は、いまの20代でも少なくありません。

 

光武:日本はどうしても新卒一括採用があり、転職はかつてよりは増えきていても海外に比べれば活発とは言えません。特に就職氷河期世代の方々は、1997年のいわゆるアジア通貨危機など、本来の希望や能力、努力とは別の要因によって持てる力が発揮しきれていないケースが多々あると考えられます。

 

そうした困窮された人々のために橋渡し役となり、そういう状況になる方を減らしたいと思っています。

 

今回政府が集中期間を設けて支援していくことは、就職氷河期世代ご本人に届けていくことはもちろんですが、就労支援や訓練のスキームを拡充することでそれ以外の方々にも良い波及効果をもたらすと考えていますし、社会全体に良い影響を及ぼすと考えています

 

そのために政府一丸となってしっかり支援する覚悟でいます。

色々な方々にご理解やご協力いただける取組を行っていきたいですね。

 


編集部後記

 

個々の人生への影響が大きく、比例するようにペインや想いが大きい雇用・就労という問題は経済も福祉の両面から取組む必要のある複雑なものだと改めて感じました。

 

また、リカレント教育や出口一体型の就労支援、企業と個人のマッチング機会(インターンなど)の創出といった領域でも様々な企業でサービス化が進んでいますので、そういった企業がこの取組と上手く連携していくことでドライブしていきそうですね。

 

来年度から始まる(すでに一部始まっている)支援プログラムを引き続きウォッチしていきたいと思います。

 

▼内閣官房|就職氷河期世代支援プログラム

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/index.html


 

(取材協力:内閣官房 就職氷河期世代支援推進室、取材・撮影:深山)

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